2012/05/16 11:30 に Hosyuko Admin が投稿
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2013/02/12 14:03 に更新しました
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- 日本の新聞でも、子供の虐待に関するニュースはかなり頻繁に目にするようになってきました。幼い子供に対する信じがたい事件の報道に触れるたび、とてもやるせない気持ちにさせられますが、私たちが「虐待」という日本語から思い浮かべるイメージと、アメリカで一般に「Child Abuse/Neglect」という言葉で語られることがらの間には、大きなギャップがあるようです。虐待という日本語からは、大人による子供への物理的な暴力の行使を思い浮かべますが、Child Abuse/Neglectは、そのような身体的暴力にとどまらず、身体的・精神的に必要な保護を与えないことを広く指し示す概念として用いられています。従って、虐待という日本語の語感でChild Abuse/Neglectを捉えていますと、思わぬ面倒な事態に遭遇しかねないことを、子を持つ保護者は知っておく必要があります。
- アラバマ州では、Child Abuseを「子供の健康や福祉への危害、ないし害するおそれがあること」、またChild Neglectを「子供に保護を与えないこと、不充分な保護しかしないこと」とし、そこには「必要な食事や医療、監督、衣服、安全な住まいを与えないことが含まれる」と定義しています。ここでいう「子供」とは18歳未満の子供を指します。
- 病院や医院、医師、看護婦、教員や学校の職員など、子供に係わる職業にある人は、このようなChild Abuse/Neglectの疑いをもったときは、Department of Human Resources(DHR)という役所に報告する義務が課せられています。そして報告を受けるとただちに調査が行われ、裁判所の手続き等を経て場合によっては子供を保護者から引き離すことまで行われます。実際に、私たちの身近でもこの調査が行われた実例があります。ある子供の「蒙古斑」(Mongolian Spots)を見たプリスクールのスタッフが、親の暴力によるアザかもしれないとDHRに通報、翌日にはさっそくDHRの調査官がその家庭を訪問してきました。このケースは単に蒙古斑が知られていなかったことに基づくもので、Child Abuse/Neglectとは全く無縁の出来事でしたが、Child Abuse/Neglectに対するこの社会の敏感さをよく表している事例と感じました。
- まずは「力」の行使について。日本人の感覚では、躾や教育の観点から子供に手をあげること(おしりをたたいたりゲンコツしたり)は一定の範囲で容認されると考える向きもあるかもしれませんが、アメリカでは意図がどうあれ手をあげることは子供に対する「暴力」と受け止められます。
- また、このような直接的な「力」の行使もさることながら、私たちの常識からすれば「虐待」とはかなり距離が感じられる行動でも、アメリカではChild Abuse/Neglectと受け止められかねないことがあります。他州でかつて経験した事例を紹介しますと、
①子供の一人を学校に送っていかなければならず、寝ているもう一人の子供を家に置いたまま出かけたところ、通報された ②前庭で子供と一緒に遊んでいたとき、電話がかかってきたので子供を庭に残したまま家に入ったところ、通報された ということがあったそうです。
- 「子供の放置」がアラバマでもChild Abuse/Neglectになり得ることは同じですが、街や地域によって人々の意識や習慣は異なるものですし、安全度にも当然違いがあるはずです。私たちが暮らしている街の中でも、子供たちだけで遊ぶ姿をごく普通に見かけるエリアもあれば、そうでないところもあります。やはり、隣近所の方、学校の先生とよくコミュニケーションをとって、当地の人の「常識」をつかむ努力が必要だろうと思います。そして、そのようなコミュニケーションを通じて、地域の人たちと相互理解や信頼関係を深めてゆくことこそが、子供の安全と健康を守る最も大切な要素の一つではないかと思います。
- ちなみに、子供が一人で留守番しても構わない年齢が州法で決まっている訳ではありません。子供だけの留守番が、子供の放置とみなされるか否かは、例えば緊急の事態(火災、強盗など)に一人で的確に対応できる子供かどうか、つまり子供の成熟の度合いが判断の一要素になるようです。言葉の問題もありますので、中学生だからいいだろう、と安易に考えない方がよいと思います。
- これまで紹介してきた例のほか、Child Abuse/Neglectには、例えば子供を車に乗せたまま車を離れること、チャイルドシートを利用しないこと、子供の自尊心を傷つけるような叱り方を繰り返すこと(人前でどなる、ののしる等)、親のけんかを見せることなどが挙げられています。更に、親子でも異性どうしで入浴することや、幼児といえどもその裸を写真にとり現像に出すことを、性的な虐待の事例として挙げる人もありました。
- このように、Child Abuse/Neglectは、「虐待」という日本語からイメージする「身体的暴行」にとどまらず、「保護の怠慢ないし拒否」「性的な暴行」「心理的な虐待」といった広い領域をカバーする概念です。そして日本人の常識とアメリカでの考え方には少なからずギャップがありそうです。お子さんのいらっしゃるご家庭では、是非これらのことを念頭においていただければと思います。
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