2012/05/16 10:58 に Hosyuko Admin が投稿
- 婦人科の医師にかかりますと、今後の出産計画や避妊方法についての質問を受けることは、当地ではめずらしいことではありませんが、日本ではあまり馴染みのない質問ということもあり、どぎまぎしてうまく答えられなかった、という経験をお持ちの方もあるかもしれません。この曖昧さは医師にとっては驚くべきことのようですが、その背景には妊娠や妊娠中絶に対する大きな意識の違いがあるように感じられます。
- 妊娠や出産に関しては、それぞれのご夫婦にお考えがあることですし、特定の考え方や方法について、その善悪をここでお話しするつもりはありません。ただ、予期しない妊娠・そして妊娠中絶という道をたどることに対する人々の受け止めを知っておくことは、アメリカ生活をしてゆく上で必要なことだろうと思います。
- 妊娠中絶は連邦最高裁判所の判例でも、アラバマ州法でも合法とされてはいますが、各州とも様々な形(保険の適用制限、医療サイドの拒否権、説明義務、待機期間など)で妊娠中絶を牽制する法制度を設けています。しかし、それらの法的制約もさることながら、何よりも妊娠中絶に対する世間の目が日本に較べ格段に厳しいのではないでしょうか。殊にこのアラバマ州は、「バイブルベルト」と呼ばれ敬虔なクリスチャンが多い地域に属しており、アメリカの中でも妊娠中絶に対して保守的な考えを持つ人が多いだろうことは想像に難くありません。
- 日本の厚生労働省の統計を少し眺めてみましょう。2年前の統計調査によると、日本の妊娠中絶件数は年間34万件、一方出生数は約120万人ですので、妊娠した人の2割以上が妊娠中絶を選択したことになります。中絶といっても10代か、せいぜい20歳代の男女の問題と思われる方も少なくないかもしれません。確かに件数で最も多いのは20歳代前半ですが、件数で見ても女性千人に対する実施率でみても、10代よりもむしろ30歳代の方が上回っています。また、妊娠した人の何割が中絶を選んだかをみると、30代後半で約3割、40代後半ではなんと85%にのぼる点などからも、妊娠中絶は決して若者だけの問題ではないことが分かります。残念ながら、これらの統計と比較に足るアメリカのデータは得られませんでしたが、参照できた数値をみる限りでは日本の数値を下回るものでした。あくまでも推測ですが、日本での妊娠中絶はアメリカでのそれよりも、制度的にも精神的にも敷居が低い、といえるのかもしれません。
- アメリカでは、妊娠中絶に対する賛成派・反対派の対立は日本では想像ができないほどに険しく、時に過激なデモやキャンペーン、犯罪まで発生するほどです。身近な例をご紹介しますと、今月からアラバマ州では妊娠中絶に関する新たな法規制(一定の説明義務と中絶実施までの待機期間を設定)が施行されましたが、これをきっかけに行われた中絶反対派のキャンペーンでは、用いられた車に目をそむけたくなるような絵が描かれていたと報道されていましたし、1998年の1月には、バーミングハムにある中絶専門医が爆弾テロに襲われ、この医院の警備にあたっていた警察官が死亡し、看護婦が大怪我をする痛ましい事件も発生しています。
- 通常の病院や婦人科は妊娠中絶には応じませんので、これを受けるためには中絶専門医にでかけなければなりませんが、これら専門医院は活動家にとって格好の活動対象となっています。活動家や時には報道機関の視線にさらされながら、そのような場所に出入りしなければならない精神的苦痛は図りしれないものがあります。
- 日本人のメンタリティーからすれば、性に関する話はご夫婦の間でも話題にしづらいかもしれませんが、一方で予期しない妊娠が招来するであろう様々な負担や苦痛を思うとき、ご夫婦でよく話しあい、医師にも相談して最適な避妊方法を見つけておくことは必要なことかもしれません。ちなみに避妊方法としては、経口避妊薬(ピル)がアメリカでは一般的な方法だそうです。
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